川瀬浩介|生きる。

或るロマンティストの営み

【今日という日はいつだって思いもよらない出来事で溢れている】

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2018年5月26日

森山開次《サーカス》@ 新国立劇場──。

いよいよ終盤に差し掛かり、1週間ぶりに、ダンサーにとってはとてもハードな、マチネ・ソワレ2公演を完遂。早いもので、明日27日を持って千秋楽となる。

公演中、音響オペレートは劇場のスタッフの方に託しているので特別やることはないのだが、連日通っては、上演を見届けている。

本当にこの作品は、出演者じゃなくてよかったとつくづく思う瞬間ばかりだ。なぜなら、出演者は、この作品を観ることができないからである。鑑賞中は、自分が音楽を担当していることさえ忘れかけているほどで、ふと気づくと思わず涙していることもある。


──幸せな阿呆──


それはまさに今のぼくのことだ。

終演後、ご来場の皆様の表情を知りたくて、ロビーに出るようにしている。満足行かなかった方は足早に立ち去ってしまうのだろうが、残って下さった方は皆一様に、その興奮を伝えて下さる。

今、この瞬間にしかなかった出来事を、共に目撃できた幸運を噛み締めながら、冗談のようなトーンで真面目な話しをたくさんさせていただいている。


──この浮世での不在──


現場にいないとき、ぼくは存在していないも同然。今日、ここにいる限り、伝えられることはお伝えしたい──そう願っている。

その願いが叶うのも、今のところ、あと1日となった。


──約束は、果たされるまでは予定に過ぎない──


この数年、強く思っているその真実を、絶えず忘れずにいられるように──己を見失わない日々を創っていこう。

今日、ご覧いただいたお客様から、お手紙を頂戴した。帰宅して封を切る──。


──思わず、声をあげた──


《サーカス》のサウンドトラックを含めて、ぼくがリリースしたアルバム全作品のジャケットが見事に再現されていた。もちろん、裏面も完璧に。ギター愛溢れるぼくの心も完全に写し取って下さっている。

お手紙の内容も、とても気遣い溢れるもので、暖かい想いを感じた。

動きある身体と表情のある衣装の印象に比べると、形のない音楽や光の存在まで意識される方は少ないのが常だと思っている。


──そこに確かにあるけれど、存在を感じさせない──


ぼくの音楽は、それくらい自然な在り方でいたいと信じているから、それは成功している証なのだけれど、やはりこうして、ぼくが届けたい想いを返して下さると、素直な喜びが湧き上がってくる。


──ありがとうございます──


添えていただいた言葉を胸に、命ある限り、我が使命を全うします。これからもぜひ、見守っていてください。


#森山開次 #サーカス #新国立劇場 #川瀬浩介 #感謝

【願いが叶えられた日】

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2018年5月23日

今日は朝から緊張していた。


──母と《サーカス》を観に行く──


子供帰りが激しいこの頃、本番に支障を来すような迷惑を母が起こさないか? または、途中で予想もしていないような体調不良が起きないか?

あらゆるケースを想定しながら、母に着せる洋服を選び、万が一のときに備えて、着替えも準備して、開演2時間前に、特別養護老人ホームへ迎えに行った。

幸いにも、母は昨日と変わらず元気な様子だった。久しぶりにオシャレなシャツに着替えさせてみたけれど、やはりだいぶ痩せてしまったせいか、肩や首元のサイズ感が合わなくなっていた──スカーフを持ってくればよかった。

今日くらいは施設の方に頼らず着替えをさせたい、と、自ら実行するも、足腰の力がますます弱ってきている母を立たせるだけでも一苦労だった。大きく育ててもらったこの身体を小さく丸めて、母を背負うようにしながら対応した。


──身体が大きい息子よかった──


介護者として過ごした日々に感じたそのことを、久しぶりに思い出した瞬間だった。

車椅子への移乗も車に乗せるのも、ますます介助負担が増している。母と同じくらいの背丈だったら──筋肉量の少ない女性だったら──自分の身体が壊れてしまっていたかもしれない。

外は、雨模様だった。施設の方は入所以来初めての外出に雨だなんて、と残念がってくださったが、いつも屋内にいる母には、こうして雨に濡れるのも悪くないはずだ。

道中は、いつものように、バヴァロッティ歌唱によるプッチーニ作曲〈誰も寝てはならぬ〉を聴いていた。よくぞ飽きないものだなと感心するほど、繰り返し繰り返し聴いては、クライマックスの「勝つ」というイタリア語の歌詞「ヴィンチェロ」をパヴァロッティがローングトーンで歌い上げるのと合わせて大きな声で歌っていた。あのロングトーンを歌い切るには、相当息を吸い込んでおかないと合わせられないのだけれど、不思議と、またに同じ長さで歌えるときがある。今の母なりに意識して呼吸をコントロールしているのだろうか?

会場に着くと、かつて現場をご一緒した方に遭遇した。母を紹介していると、「写真を撮りましょう」と申し出ていただいて、場内に設けられている記念撮影ブースに2人で並んだ。


「アイドルスマイル」


そう声をかけると、母はこんな表情を返した。


──本当に子供に帰っているんだな──


3年前の初演のころと比べると、変わりようは顕著だった。劇場を愛した母が、上演中に手を叩いて喜ぶようなことなど決してなかった。特に大きな迷惑にもなっていない様子だったから静止はしなかったけれど、今の母の状態を改めて知る瞬間だった。それを、母の憧れの場であった劇場で見届けたのだから、余計に象徴的に映った。

今回用意いただいた車椅子席は、ステージ上手。もう何度も観ている演目だけれど、思えば上手から見届けるのは初めてだった。そのため、これまで見えなかった様々なことを知ることができて、とても新鮮な気持ちと同時に、新たな深い感動が呼び覚まされてきた。


「今日、母を連れて来なければ、ここからの画もこの気持ちも知ることはできなかった」


──出来事とは、説明のつかない巡り合わせである──


出演者の皆さんは、人知れず、今回も母に大サービスをして下さった。

関係者の方からの暖かい眼差しも数えきれない。

そして、母とぼくに、こんな差入れを下さったりもする。


──焼きそばパン──


こんなチームは、他にはない。


劇場の方からは、「記念に」とマグカップをプレゼントしていただいた。数に限りがあるものだから、ご来場のお客様に行き届かなくなることが心配だったけれど、ありがたく頂戴させてただいた。


──ご厚意には甘える──


介護者として過ごした時間に学んだことだった。


「ありがとうございます」


つい「すみません」とへり下る態度も改めた。


──どんなときもご厚意には、感謝の言葉を伝える──


苦しいことと同じくらいたくさんのことを学んだ日々だった。


──5年7ヶ月──


《サーカス》も今日で折り返し、残り4本となった。閉幕の扉が見え始めている。

そろそろぼくも、次のステージに向かうための扉に臨もう。そのための機会は、もう目の前にある。


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【見憶えのある青空】

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2018年5月20日

森山開次《サーカス》2018再演 2日目──。

初日を無事に終えてやり切った感覚が強くでたのか、案の定、疲れが回り始めている。どれくらい疲れているのか説明するのは難しいが、言葉にするとこうだ。


──この2日間で4回、口の中を噛んだ──


しかも同じ箇所を…。さらに付け加えると、もっとも鋭い犬歯で、ためらいなくいった。これで少しは食欲も控えられるといいのだけれど。

目覚ましのスヌーズ機能と格闘すること1時間──なんとか重たい身体を起こして外を観ると、見覚えのある空模様が目の前に描かれていた。


──あの空模様を観られるのも、今日を含めてあと6回か──


劇場のバックヤードでは、はやくも出演者やスタッフの話題に上がっていることがある。


──「本当にいい作品だね」──


もしも再再演が叶うなら、それは素晴らしいことだけれど、みための愉快さや優雅さとは裏腹に、かなりハードなパフォーマンスゆえに、実現させるには検討しなければいけないことはたくさんありそうだ。

未来のことなんて誰にもわからない。だから、その時その瞬間を全力で過ごすことができたら、それでいい。

そうした姿勢に、人はきっと、心打たれているのだろうから。

結果はコントロールできない。けれど、唯一約束できることがある。


──全力を出し切る──


当たり前のことを当たり前のようにやることが、その実、最も難しいことなのだけれど。


明日明後日と、まっさかサまーカス団はお休み。

23日(水)19時に、夢の中でまた逢いましょう。


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【森山開次《サーカス》2018年再演 初日】

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2018年5月19日

初日の幕が開けてしまえば、ぼくの出番はおしまい。あとは、劇場の音響チームと作り上げたこの音空間をお客さんと一緒に楽しむだけ。

自身も3年ぶりにこの作品を観て、新たに思うことがたくさんある。

子供のころ、母に連れられていった実際のサーカス──無自覚ながら、なぜあれほどまでに興奮したのだろう?

猛獣使いが現れて、火縄潜りがあって、おどけたピエロが不可思議な音楽に乗って登場する──わざわざ、頰に涙のしずくを書き記した表情で──球体の中を360度バイクが駆け巡ったシーンも鮮明に記憶に残っている。そしてハイライトは、空中ブランコだ。

いま思えば、すべて命がけでの技ばかり。

我らがまっさかサまーカス団もそれは同じこと。万が一ステップを誤れば…フォーメーションが崩れたりしたら、ダンサー生命が脅かされる場合もあり得る。


──生きるとは、まさに命を賭した営み──


ぼくたちは、人生という名の舞台を生きている。当たり前のことなどなにもないのに、明くる日=次のシーンがやってくるとどこかで思い込んでいる。


──「また明日」──


その言葉は、もう一度会えると信じて交わす祈りだ。


──「おはよう」──


次に目覚めて顔をあわせるまで、今日が最後になるかもしれないのだから。


──生あるすべての瞬間は奇跡に他ならない──


このきらめく奇跡を、劇場で見届けていただけたら光栄である。


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【森山開次《サーカス》開幕】

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2018年5月19日

初日、劇場入り──。

3年前の初演時同様に、出演者、スタッフの安全を期して、神棚に祈りを。


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【森山開次《サーカス》5/19開幕】

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2018年5月18日

最終リハーサルを終え、公開ゲネプロに向けて各自準備中の図──。

いよいよ、明日、5月19日、開幕。


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【森山開次《サーカス》まもなく開幕】

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2018年5月17日

舞台照明、仕込み中の図──。

劇場の照明の美しさを知ってしまったからこそ、光を扱う作品を手がけることになったのだと思い返しながら、作業の様子を見学している。

音楽や光は形がないゆえに、その存在を感じさせないことがあるけれど、それは、何の違和感ないレベルまでに仕上げられている証明でもある。


──自然にそこにあること──


今回も、その使命が果たせるに違いない。


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