【長い想い出話しと吉報を待ち侘びる気持ち】
2020年6月18日
今日は月一恒例の定期受診日。先月受けた血液検査の結果を聞いて来た。この半年、長らく調子を崩しているので、身体の中で異変でも起きているのではないか? と案じていたが、このコロナ禍において摂生してきた甲斐あって、大きな問題は見当たらずとのことでまずは安堵した。
帰り道、食料と日用品の買い出しのため、数件のお店を回ってから日暮れ前に帰宅。昨夜もあまり眠れなかったせいもあり、軽く食事を済ませたところで、ゆっくりと眠気が襲ってきた。
いま、なによりも贅沢なぼんやりとした時間にネットを探っていると、気になる投稿を見つけた。
Yasuaki Shimizu & Saxophonetts "Latin"
YASUAKI SHIMIZU | MUSIC
清水靖晃氏の作品のほとんどを聴いてきたつもりだったが、この作品は完全に聴き落としてしまっていた。
今回提供されたテキストと音源をみて聴いて、思わず驚愕──。こうした世界観を持ったアルバムは、特に90年代後期に世界中からたくさん現れていて、ぼくも例に漏れず聴くようになっていたが、これはなんと!
「1983年録音」
その年のぼくと言えば、中学1年生だ──誰彼等しく無自覚のまま自意識を育んでいくなんとも厄介な時季に突入していた。世間では、春に東京ディズニーランドが開園し、夏には任天堂ファミリーコンピューターが登場。年末にはYMOが散開した。「笑っていいとも」も83年スタートの番組だと思っていたが、調べるとスタートは半年早い82年秋。いずれにせよ、思春期真っ只中に新しいことが次々起こる様子を目の当たりにして、これもまた無自覚に興奮していたように思う。そしてあとから振り返れば、このころからバブル経済が始まりつつあった。
このアルバムが実際に世に放たれたのは、1991年だという。その事実を聞いて思わず嘆息した。
──時代の流れは実に巧妙にできている──
この年から、バルブ崩壊の序章が幕を開けたのだった。
流行りのLAメタルやギター愛が爆発してAllan Holdsworthを聴きあさっていたころ──通い始めたばかりの音楽学校は、バブル崩壊の煽りを早々と受けて4月の入学から一ト月も経たないゴールデンウィーク前には先行きが危ういという噂が流れ始めた。しかし有志の講師の方の計らいで、なんとか1年間だけは授業が継続されたものの(恐らく無給でやって下さったのではないだろうか)社会情勢は好転せず、学校は倒産、閉校となった。
中には、新聞奨学生として働きながら通っていた仲間もいたので、支払った入学金を取り戻そうという意見がでた。母に相談すると、「法務局で会社の登記簿を見れば資産状況がわかる」とアドバイスを受け、身体の不調で仮面浪人時代を過ごしていたせいで同期のなかで一番年上だったぼくが代表して法務局へ向かった。登記簿の内容をみて、社会の厳しさを初めて思い知らされることになった。ぼくらが入学直後に経営陣が代わっていたのだ。つまり、閉校時の経営陣は、沈みゆく泥舟の船頭として後始末を引き受けただけだったのである。
そういえばあのとき、Allan Holdsworthのアルバム《Metal Fatigue》(1985)をカセットテープにダビングしてSONYウォークマンで聴いていた。長い長い待ち時間、法務局ロビー内に置かれたいくつものベンチを退屈しのぎにあちこち移動しながら、このアルバムのなかでも最も長く複雑な構成とただならぬ雰囲気に満たされた15分近くもある曲〈The Un-merry Go Round(In Loving Memory of My Father)〉をやけに注意深く聴いていたことをよく憶えている(今日になってそのことを思い出し、副題の意味がやけに気になり出した)。
話は戻って、Yasuaki Shimizu & Saxophonetts《Latin》、である。SoundCloudのサンプル音源をずっと繰り返し聴いている。
あの二十歳の頃、学校のそばにはあのWAVEもあって足繁く通っていたけれど、この音楽には出逢えなかった。いや、たとえ巡り逢えていたとしても、ぼくには未だ耳が届かなかったに違いない。
──いま、手元に置いてじっくり味わいたい──
時は過ぎて、21世紀である。早速ネットで世界中を探すと、いくつか中古盤が見つかった。だが、近年、海外での再評価が高まり旧盤再発が続く氏だけに、これは「もしかする」のだろうか? いま現在ではとても貴重になった「吉報」を待ちわびることにしよう。
「吉報」と言えば、他にもいくつか待ち詫びているものがある。およそ30年前、社会情勢に飲み込まれて手にできなかった専門学校の卒業証書と同じように、それを手に入れたからといって何が約束される訳ではないのだけれど・・・。
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