【無欲な情熱が燃えたぎるその場所へ】
2018年6月16日
母の不在が続いた当時、こうして台所の脇に練習セットを組んでいたことを思い出した。
こうして再びここに準備をしたのは、今年の春、今のところ最後となった一時帰宅に備えて撤去して以来だろうか?
──演奏は、一種の瞑想効果があるように想う──
午前4時──気づけばだいぶながい時間、無心にエレクトリックギターを響かせていた。
このセットで演奏するのは随分と久しぶりだ。それでも、とても艶やかな、狙い通りの音色が聴こえてくる。
──嗚呼──
なんて実にしっくりくる時間だ──。
──誰かと過ごしていて、とてもこころが落ち着くような──
そんな、これまでずっと待ち侘びているような…ひと時。
急がずゆっくり、また戻っていこう。ギターを初めて手にしたときのような、無欲な情熱が再び燃えたぎるその場所へ。
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【Spotify体験中】
2018年6月15日
いよいよCDプレイヤーさえ持っていない世代との交流が始まり、SpotifyをPremiumアカウントにアップデートして体験してみている──先んじて利用していたApple Musicの音源と聴き比べたりしながら。
ふと思い出して、Allan Holdsworthの作品を久しぶりに聴いてみる──当然のことであるが、ハイレゾだのロスレスだのCDだのアナログだの配信だの、音楽を届ける仕組みは一切関係ないことがよくわかる。
──素晴らしい音楽は、方法と装置を選ばず、ある雰囲気を醸し出す──
氏が先だった夜、己が何をしていたかと振り返ると…。
繰り返し、自らに言い聞かせる──。
我が使命を果たすために、すべてを注ごう。
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【果たすべき約束がある幸運】
2018年6月4日
6月3日──市原湖畔美術館での、ひびのこづえ展パフォーマンスプログラム、無事、閉幕。未だ経験のない、ながいながいロードを終えた気分だった。
そのエンディングに相応しい極上の上演と、まるで映画のエンドロールを眺めているような助手席からの眺めが、ぼくをより深く感傷的にさせていた。
ひびのこづえ展でのパフォーマンスプログラムのための音楽の準備を始めたのが2月。「家族」「生命」「人生」という作品のテーマが、この数年のぼくが見つめてきた現実と重なり、案じていた通り、苦しんだ。
そこから逃げ出すのは、実に簡単だった。
──暴飲暴食──
自ら放蕩を繰り返し、心身を壊しかけるだなんて…。一種の依存的な兆候を覚えて自戒するに至ったわけだが、そう改心できたのも「果たすべき約束」があったからこそ。
──そして、守るべき人がいるからこそ──
一切の甘えを絶って、己を律する──目指すその境地に達したとき、どんな風景が見えてくるのだろうか?
まずはこの、燃え尽きたあとに必ずやってくる孤独を癒そう。何にも誰にも頼ることなく、独り静かに。
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【人知れず波瀾万丈】
2018年6月2日
明けて現在、翌3日、午前3時──昨日、現場入りしてから見舞われた風邪のような症状もようやく収まってきている。
昨晩の夕食後、宿に着いて即、入浴したあと眠りに落ちたのは、恐らく21時ごろ。風呂で温められた微熱を帯びた身体はほどよく発汗し始め、25時過ぎに目覚めたあとは、だいぶ爽快な気分になっていた。あれだけ滝のように流れていた鼻水は止まり、今度は鼻詰まりへと変わったが、上演に支障がでるくしゃみが収まって安心した。
昨日の朝、特急列車に乗るため向かった新宿駅までの在来線が異常な混み具合で、キーボードを含めた少し多めの機材を運んでいたものだから、周りへの気遣いと運搬による筋肉運動で、予想を超えて相当な汗をかいてしまった。汗が引いて寒くなる気配は美術館に到着するまでなかったのだが、機材セッティングや衣装の吊り変えなどで埃がたったのか、生来の鼻炎の症状も重なり、一気に風邪のような状態に見舞われだした。
携帯していた鼻炎を抑えるための処方薬を飲んだものの、鼻水が止まらず…鞄のなかに残っていた使われなかったままのマスクを装着しても抑えきれなかったので、マスクの下にハンカチタオルを挟んだ状態でどうにか本番を乗り切った。
限られた仕込み時間に機材トラブルに見舞われ悶絶するなか、体調不良で頭はぼんやりし始める──途中、どうしたらトラブルを回避できるか解決策を見失いそうになったけれど、10年近いライブパフォーマンスの歴史のなかで、始めてバックアップマシンをメインに置き換えてシステムを組み直し本番に挑むことに決定。作業を並行してメインマシンの復旧にも試み、本番ではいつもと同様に2台のマシンが同期して再生を行うバックアップが整った環境下でプレイ──。
丁寧な準備をして現場入りしたダンサーの、言葉を喪うほどに美しく煌めき溢れるパフォーマンスに圧倒されながらも、演者の一人として、至福のときを過ごすことができたのは、いつもながらに、とても幸運だった。
本番は、機械任せになるため、トラブル対策は欠かせない。加えて、ぼくの体調不良も考えずにはいられないとなると…できる準備は今夜中に済ませておきたく、言うことをきくようになった身体を動かして、昨日録音した本番の音源をiPodに移植する作業を実行。さらに、本番で気になった箇所を修正して、今夜の任務は完了──再び床に就いて、現在に至る。
万全の体調ではなかったけれど、名演を終えたあと、夕食にいただ絶品ピザは、相変わらず各別だった。
──市原産トウモロコシとミニトマトのピザ──
そしてお気に入りのスムージーも旬の材料に入れ替わり、いちじくからイチゴ(市原産とちおとめ)へ──鼻の具合が万全ではなくとも、目がさめるほどフレッシュな味わいで慄いた。これまでのぼくなら迷うことなくおかわりしていたところだが、今日も自制。体調のせいか、己を律しているこのごろの成果なのか、今日は腹7分目くらいで満足感を得た。
──このまま、このまま、このまま──
午前3時30分──既に空腹を感じ始めている。朝食を楽しみにしながら、もう一度ぐっすり眠ろう。
──今日はどんなパフォーマンスになるだろう?──
一度たりとも同じ瞬間が存在しない40分──人が舞うというその営みは、まさに「生きる」ことの表象である。
「今」という奇跡のときを当たり前の出来事として見つめていられる幸運を噛み締めながら、再び今日という日を生きたい。もしこの闇がもう明けないとしても悔いのないように。
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