【森山開次《新版・NINJA》再演、開幕──役目を果たした日】
2024年6月28日
開幕──。
2年前に再演のお話をいただいてから今日までの道のりを思い返す──その間、主だった作業は特になかったけれど、心のどこかで密かに願っていたことがある。
──この日まで、どうにかやり遂げる──
今夜、関わった全てのスタッフと開幕を見届けたあとひとりの時間に還えったいま、その願いが叶えられた幸運をそっと噛み締めている。
アルバムもようやく完成した。5年掛かり になってしまったのは、CDという媒体で聴いたときに心地よく楽しめる音に仕上げることがなかなかできずにいたためだ。
通常の音楽パートに加えて、雨や風、雷などの効果音、そして大迫力の和太鼓アンサンブルや変拍子のノイズサウンドなど──無数の要素が渾然一体となった音楽を満足いく内容でCD化するのには想像以上の困難を極めた。少し作業してはうまくいかず諦め、途中にコロナ禍を挟みアルバムのリリースどころではなくなってしまった。さらには連鎖した極端な死別体験で心神喪失──。
──もうNINJAのアルバムは完成しない──
そう思っていた時期もあった。
それが、今回の上演のために稽古場に向かって、一気に急かせれた気分になった。
──本物のNINJAがいる──
新たに迎えられたメンバーの気迫が、特に第二幕の完成度をより高めていて、圧倒された。録音済みで変化のしようがないぼくの音楽の聴こえ方まで違って感じられたのだ。
──アルバムを出さねば──
この期を逃すと、本当にもう、アルバムは絶対に完成しない──そんな強迫観念のようなものを覚えたのだ。
しかしそのとき、ぼくはひどく体調を崩していた。重度の副鼻腔炎を患ったことから端を発し、乱高下する発熱と激しい咳込み、そして事実、脳髄膜炎を疑われるほどの激痛を首の裏側に覚えていて、寝ても起きてもいられない状態がおよそ2ヶ月──稽古場に向かった日も、痛み止めが効いている間だけの滞在の予定で見学していた。
ところがその日、稽古場で目撃したダンサー陣のエネルギーに煽られたのか、ぼくはその後ほんの数日間だけ、アルバム完成までの体力と気力を授けてくれた。あれだけ悩んでいた仕上げ作業は流れるように進み、ジャケットデザインまでもあっという間に完了したのだった。
アルバムがプレスされている間にもシーンはアップデートを繰り返し、劇場入りしてからも時間の許す限りのチャレンジをして、ようやく《新版・NINJA》は産み落とされた。
その様子を見守っていた身からすると、この《新版・NINJA》再演バージョンは、《NINJA完結編》と言っても過言ではないほどの完成度を誇る仕上がりになった。
今日の初日を見届けて、音響チームに感謝の言葉を伝えた。
「命ある限り、この作品の音響を担当してください」
ぼくがどれだけ感激したか、その想いが伝わっているといい。
──ぼくたちは今、未来の古典を手掛けている──
ここまで仕上がれば、もう大丈夫。何世紀に渡っても楽しんでもらえる作品になったに違いない。ぼくの役目も、これにて一件落着、である。
明日は一観客として上演を味わう日──ここまで導いていただけた感謝と楽日を翌日に控えた一抹の寂しさの狭間でまた何を想うのか? 自分の心の移ろいを楽しみにしたい。
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