川瀬浩介|生きる。

或るロマンティストの営み

【目撃者となった夜】

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2018年8月31日

気づけばだいぶながく現場をご一緒しているが、ホワイトアスパラガスの普段の姿を観たことがなかった。

沖縄での仕事の合間の時間、彼らが〈あの爆笑ネタ〉を稽古している様子を傍らで眺めていた。あんなに腹を抱えて笑ったのは、思春期以来か? というくらいそのネタは可笑しさに溢れていた。細かい間合いやコンビネーションを煮詰めていく時間は、まさに真剣勝負そのものだったが、途中でふと我に帰った。


──彼らは現代サーカスユニットだったよな?──


そんなジャンル分けが不毛なことくらい、自分に芸風を見つめればよくわかる。


──完成形がみたい──


その一心で浅草に向かったのだが、なんと雷門の前に着いたとき、突然の体調不良に見舞われた。

出発前、妙な感覚があった。感動巨編を観ていたわけでもないのに勝手に鳥肌が立ったかと思えば、寒気もしだし、遂には妙な汗もかいていた。

脱水気味になっているのか? カフェインによるダメージか? 途中で飲んだドクターペッパーのせいか? それともお腹が減っているだけか?

めまいがしだしたので引き返そうかと思ったが、その元気もない。誰か助けに来てくれる人を思い浮かべようとしたけれど、残念なくらい誰一人として思い浮かばない──ひとまず水を飲んで、前に食べた記憶が思い出せないほど久しぶりに対面した牛丼を頬張り様子をみることにした。

開演30分前──小雨も降り始めて少し肌寒くなってきた。牛丼を食べ終わってもめまいは収まらず、ふわふわとした足取りで劇場に向かう。

すると、開場を待ちわびるお客さんたちの行列が目に入ってきた。


──たくさんのファンが待ってくれている──


それだけ期待されたショーだということがとてもよくわかる光景だった。

ホワイトアスパラガスは、沖縄で仕込んでいたネタを含め、2作品を上演した。大トリで登場した彼らを待ち受けていた満場の会場からの笑いと熱狂は、これから大きく羽ばたいていく2人の未来予想図を先取りしたような、まさに〈現象〉だった。


──ぼくはその目撃者となった──


ときおり歓声が大きすぎて、本人たちにとっては作り込んだ細部が伝わりきらないジレンマが残ったかもしれない。しかし、そうした瞬間に遭遇することも、時代の担い手には必ずつきまとってくるものだ。

そう遠くないうちに、大道芸、サーカス、ジャグリングという枠を軽々飛び超えてしまうことだろう。

沖縄で上演した《WONDER WATER》の記録撮影をしているときだった。最終公演の終盤、手拍子を受けながら彼らが踊っている様をカメラ越しに見つめていて、〈未来の何か〉を覚えた。その図をハッキリとみたわけではない。ただなんとなく、まだ誰も知らない大きな物語が、この後に続きそうな…そんな予感めいたものがあった。


──想像もし得ない未来が、彼らに授けられますように──


それがどんな物語なのか?
今夜の続きを早くみせておくれよ、スター!


#空転劇場
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#目撃者
#未だ見ぬ物語
#未来予想図

【美はときに人を惑わす──6日6色の東シナ海】

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2018年8月28日

前日の10時に現地を出て、帰宅したのは18時──それからほとんど丸一日、眠っていた。

帰宅後、ぼんやりしながら記録動画を自宅のテレビモニターで確認している間に、案の定、眠りに落ちた。生理現象で起き上がったのか、腹が空いて目覚めたのかあまり憶えていないが、途中で寝床へ移動したらしい。

いや、今、思い出した。

21時ごろだったか、東京は激しい雷雨に襲われていた。映像記録のなかに収めた花火の音なのか、それとも雷の音なのかわからず、うつらうつらとしていた記憶がある。そしてある瞬間、閃光と共に、電気機器がすべて止まった。

しばらくすると、自動的に電源が再供給され始めた。ブレーカーは手動で入れ直す必要があるから、この現象はなんだろう?


──落雷による停電──


初めての経験だった。

そのとき家の各所を確認するために起き上がったのだった。洗い済みの洗濯物を取り出していつも通り室内干しをし、通電を確認するようにサーキュレーターを回した。

それから丸一日が経過した。予定では、今夜はジムに行くことになっている。無論、こんな動くこともままならない酷い疲れに見舞われているときは身体を休めることを優先させたい。

滞在中記録した、ホテルのある窓辺の図を並べてみた。一週間も同じ海を見つめていると、今日の海がどれだけ澄んでいるのかがわかるようになった気がする。

三層に色分けされて見えるのは、きっと海底までの深さの違いだ。海は、青い波長の光を吸収する。深ければ深いほど海水の体積が多くなるのだから、浅瀬は透明に近く、沖合は青をたくさん吸収して深く色づく…そういう理屈なのだろう。

それにしても、その中間にあたるエメラルド色した海の美しさは、いったい誰の仕業なのか?


この窓辺が気に入ったのは、通常はあまりお客様が来ることのない場所に位置していること。


──特別な場所は、そっとしている──


賑わいの場でひとり味わう静けさ──また再び、静寂のなかにあるその興奮を楽しみたい。


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【さよならの朝に】

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2018年8月26日

早朝に目覚めて、ベッドを見つめる──。

沖縄滞在最後の夜は、こんな調子だったらしい。


──ベッドに潜り込む気力さえなかった──


打上げを終えて客室に戻ったのは、25時過ぎ。休むまもなく着替えて、24時間使えるジムに向かった。滞在期間中、2度は使いたかったが、これも予想通り、そんな余裕はまったくなかった。

昼は本番へ向けた準備、夜は部屋で明方まで記録動画の編集…。少数精鋭のチームで向かった立派なリゾートホテルでの仕事に寛ぎの時間を期待するほど、ぼくの経験値は低くはない。


──目の前の仕事はその瞬間に終えたい──


最終日、6日目の2演目の記録動画をまとめたかった。しかし、そんなトップエリートのような振舞いは、ぼくにはできるはずもなかった。

目覚ましをかけずに横になった記憶がある。ところが、夢になかで見た通り、チェックアウト3時間前に自然と目が覚めた。

既に映像素材の取込みと編集のためのフォーマット変換は終演後に終えてあった。


──まだ間に合う──


連日、記録を仕上げてきたので、6日目ともなればもう手慣れたものだ。2時間と少しで作業を終えて、動画配信サービスにアクセスした。

アップロードが完了するまでの間に朝食をいただきに向かった。毎日食べても飽きることのない充実したメニューと酸味と苦味が絶妙に混じったブラックコーヒーを今朝もたっぷり堪能──。

窓辺に映る景色と夏休みの家族連れで賑わうビュッフェの様子を眺めながら、37年前、母に連れられてきた沖縄で体験した出来事の記憶を弄んだり、かつては特別なひとのための場であった「高級ホテル」の移り変わりについて考察を深めたりしながら、過ぎた時のながさについて想いをめぐらせていた。


──生きる──


ひとはいつの時代も、生きるために必死だった。その挑戦の歴史があるからこそ、ぼくたちは今を生きていられる。

37年前に沖縄に来たとき、母は、ちょうど今のぼくの年齢と同じ、47歳だった。価値観も社会情勢も今とは異なる今、当時の心情を訊いたところで何になる? それでも、興味があった。


──母が何を想ったのか?──


母は今でも笑顔を絶やさずにいてくれる。けれど、今の母に何を訊ねても、もう応えは帰ってこない。


──ぼくがこの旅で何を感じたのか?──


これからの日々のなかで、きっと気づきが訪れるのだろう。そのためにぼくは、この歳に沖縄にやってきたに違いない。


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【沖縄パフォーマンス最終日】

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2018年8月26日

本番6日目。
4日目を終えたあたりから、絶えず朦朧としている。


音源編集──。
昼夜の本番──。
音響操作──。
記録動画撮影および編集──。
MC──。
キャプテンシー?──。


標準の2倍くらいはある体型をしているのだから…
3人前は食べているのだから…
5人前は無駄話をしているのだから…


これくらい役割を担ってもまだ足りないかもしれない。


手が足りなくなって遅れている動画編集を現在の時間軸まで戻そうと、早出特編?を稽古場にてひとり取り組んでいる。

今日も眼下には見事な景色が広がっている。しかし、眩しがりのぼくは、眼を守るため、室内でもサングラスを着用しながらその自然の恵みを眺めている。

メインパフォーマンスと言える《WONDER WATER》は、昨夜の上演で千秋楽を迎えた。今日は午後と夕方に、ホワイトアスパラガス《MASK》、浅沼圭×安岡あこ《Rinne》を披露して大千秋楽となる。それそれ3度目の上演になるので、より技の精度やコンビネーションが高まっていくことだろう。

役目を完遂して何を想うのか?
それが一番の楽しみ。


ぼくの座る位置からは、バルコニーのガラスの柵の上端と水平線が重なって見える──。


嗚呼、なんて美しいのだろう。


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《WONDER WATER》in 沖縄

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8月21日より沖縄県恩納村に新たにオープンするリゾートホテル=「ハイアット リージェンシー瀬良垣アイランド沖縄」にて、ひびのこづえ×ホワイトアスパラガス×川瀬浩介《WONDER WATER》ほか、新作《RInne》を含むパフォーマンスを上演します。

 

[公式] ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄|沖縄のビーチリゾートホテル


▶︎パフォーマンス上演スケジュールパフォーマンス上演スケジュール

 


《WONDER WATER》沖縄バージョン(40分)出演:ホワイトアスパラガス 浅沼圭 安岡あこ

《MASK》サーカスパフォーマンス(20分)出演:ホワイトアスパラガス

《Rinne》ダンスパフォーマンス(20分)出演:浅沼圭 安岡あこ


衣装:ひびのこづえ 音楽:川瀬浩介

 


8月

21日(火)19時~   《WONDER WATER》

22日(水)16時~   《MASK》

      19時~   《WONDER WATER》

23日(木)16時~   《Rinne》

      19時~   《WONDER WATER》

24日(金)16時~   《MASK》

      19時~   《WONDER WATER》

25日(土)15時30分~《Rinne》

      19時~   《WONDER WATER》

26日(日)15時~   《MASK》

      17時30分~《Rinne》

 


*パフォーマンスのご観覧は無料ですが、ホテル内のカフェ等のご利用をお願い致します。


このほか、オープニングシーズンにあわせて、リゾートホテルならではのイベントが多数企画されています。


▶︎イベントタイムスケジュールPDFファイル→https://goo.gl/ukt1Jj

【恍惚のとき】

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2018年8月2日

事務専用机を設けた。

これまではスタジオ内で並行して行っていたのだけれど、実に能率が上がらない──事務を始めると空間は書類であふれて作曲に手がつけられなくなり、作曲に集中するため書類を整理すると、今度は事務が滞ってしまう。


──アタマノナカガウルサイ──


脳内の整理が必要な年頃になってきている。そのため、この2年ほどは、パフォーマンスを上げるために必要と思われることを試し、取り入れている。環境づくりもその一環だ。

母の不在で空いたスペースに置いたテーブルには、限られた事務用品とコンピュータしかない。1日のうち、決めた時間にだけ事務をすることにした。メールの確認もそのときだけ行う。スマートフォンを使い始めて間もなく10年──常時連絡をチェックすることを理想としてきたが、当然のように、何事も利点ばかりではない。


──己の使命に集中するために──


今はそのことだけを考えている。


今夜は、仕上がったばかりの音源を、その事務専用机にあるコンピュータで聴いている。長年、録音エンジニアリングをこなしてきただけに、仕上がりは上々。スタジオの環境で聴くのと遜色ない音が聴こえてきた。まずは何より一安心だが、本番へ向けてまだ改変していくことになるだろう。

こうした時間に、ひとり想う──。


──音楽こそ、母が授けてくれた一番の贈りもの──


音楽に没入している時間は、まさに〈恍惚のとき〉だ。痛みや苦しみを覚えることはあっても、それから何も感じることはない。音楽がそばにあるだけで──喜びも愉しみも可笑しみも──あらゆる感情から解き放たれる。


──無 nothingness──


「恍惚」を英語で何というのか?──調べていたら、この言葉のもう一つの意味を思い出した。

恍惚とはまさに、今、母とぼくが過ごしている時間のことをいうのだろう。母とぼくとで、その二つの意味を体現しているかのようだ。


──あるべき場所に帰る──


広義において、人はそれを「旅立ち」と名付けたのだろう。

母が自ずとそうしているように、ぼくも今、ぼくのあるべき場所にいる。

「音楽」という営みのなかに。


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【目がくらむ】

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2018年8月1日

まるでアスリートのようだ。

限界まで歌うことに挑戦する──すると、もはや起きていることさえ難しくなり、そのまま眠りに就く。

数時間経過して目覚めると、近頃の筋トレの効果か? それとも、歌うこともトレーニングになっているのか? 全身の筋肉に心地よい張りを感じる。

食事は作り置いたおかずがある。外に出ることは一切ない。昼夜問わず、喉の調子が比較的いい時間帯に録音を敢行。暑さと、無理なハイトーンを多重録音するため連続して歌っていることもあり、時おり酸欠に気味になっているのか、視界が白む瞬間がある。

いつか母を入浴させていたとき、うっかりタイマーを掛け忘れていつもよりほんの僅か長く湯船に浸からせてしまったことがあった。慌てて浴槽から引き上げると、案の定、血の気が引けて、母は気を失いかけた。一大事にならなくてよかったが、人が脱力する瞬間の怖さを、あのとき改めて感じた。


──今、この家にぼくはひとり──


果たすべき約束を守るため、無理はしてはならない。だがしかし、その約束のために、全力を投じたい。持てる力のすべてを捧げて。


さて、今日の録音は比較的順調に進み、そろそろゴールが見えてきた。次の曲は、これよりもたくさん声を重ねることになりそうだ。トラックが増えていくので、ミキシングも一苦労。無論、それが録音の醍醐味なのだけれど。

この次のプロジェクトでも歌うことになったら、酸素缶を予め用意しておくことにしよう。


──己の身は、己で守る──



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