川瀬浩介|生きる。

或るロマンティストの営み

【セルフ・ライナーノーツ】川瀬浩介《A Small Hope》(2015)

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【セルフ・ライナーノーツ】川瀬浩介《A Small Hope》(2015)

──森山開次《サーカス》オリジナル・サウンドトラック──

 

 

「川瀬浩介の最高傑作」

 

 

これは、本編公開を2週間後に控えた通し稽古のあと、

初めて全編を通して聴いたある関係者から贈られたこのうえない賞賛の言葉である。

 

その評価をいただいて、大きな責任を果たせた安堵の想いと同時に、ぼくの心中は複雑だった。

 

制作は、この作品に懸ける期待とは裏腹に、困難を極めていた

(その理由はアルバムのプレスリリースに記している)。

 

 

「新しい自分に生まれ変わる」

 

 

そう期して挑んだ試みは、完成してみると、何一つ新しいことはなかった。

 

 

──集大成──

 

 

前向きな言葉を選べば、このアルバムは、そう位置付けられる。

これまで蓄えてきたものをさらに洗練さるしか為す術がなく、

ぼくが期した「生まれ変わった自分」を僅かでも垣間見ることさえ叶わなかった。

 

しかし、後にアルバムを聴いていただいた方から届いた言葉が、

ぼくに新しい視点を授けてくれた。

 

 

「集大成が最高傑作だなんて、すごいことです」

 

 

このアルバムは、出来上がったその瞬間から、とても誇らしい仕上がりだった。

その揺るぎない事実を、当時のぼくを支配していた「過ぎるほどの謙虚さ」で

心の奥底へ封じ込めてしまっていたのだ。

 

アルバムは、ダンス公演のサウンドトラックとしてはありえないほど、

とても多くの皆さんに届けられることになった。

それこそが、このアルバムに与えられた勲章である。

 

2015年初演、そして2018年の再演を経た今、改めてじっくりと聴き返してみる──。

 

自ら、声高らかに宣言しよう。

 

 

「これがぼくの最高傑作!」

 

 

無論、次のアルバムがリリースされたら、次点に繰り下がることは触れるまでもない。

 

制作当時のことを振り返りながら、セフルライナーノーツを書き上げた。

音楽そのもののことより、記憶に残る各シーンのことについて多くを触れている。

 

 

──完成に至るまでのあらゆる想いが今、再び蘇ってくる──

 

 

制作にあたり、多大なるサポートをいただいた全ての関係者の皆様に、改めて感謝の意を──。

そして、ぼくに音楽という贈りものを授けてくれた母に、胸いっぱいの愛を。

 

アルバムを聴き返すたび、その気持ちを想い返せるのだから、

ぼくはこの宇宙で一番の幸せ者なのだと、今、改めて我が幸運を噛み締めている。

 

2018年11月28日

川瀬浩介

 

 

 

 

01. 青空楽団 1995(0:24)

 

作曲を開始するにあたり、イメージ共有のため最初に提出したサンプル曲集に収めた1曲。

タイトルからも分かるとおり、オリジナルは、1995年に作曲したもの。

つまり、《サーカス》初演から20年も前に遡る。

録音も、当時のまま。残っていたステレオミックスをそのままマスタリングして使用した。

 

「サーカス」というテーマをいただいて最初に浮かんだのがこの曲だった。

個人的にもこの不可思議な雰囲気はずっと記憶に残っていて、

いつか絶好の機会に登場させたいと期していた。

そしてついに、そのチャンスを得たというわけである。

 

ショー冒頭、「まっさかサまーカス」の世界に誘われるシーンに使用されている。

 

 

02. musica humanoide 1(3:31)

 

「異星からの生命体が人類の音楽を真似て作曲したとしたら」──。

 

そんな空想のもと考えついた〈musica humanoide〉シリーズ。

本作には、そのうち3作品が収められている。

 

この〈musica humanoide 1〉は、「1曲=地球一周の旅」をイメージして

次々とあらゆるジャンルの音楽を横断していく。

ショーでは、床面に投影された映像と照明、そして、

地底=Hell?からの眠りに目覚めたような

「まっさかサまーカス団」の奇妙な舞とのコンビネーションにより

この先の展開に期待感を募らせる、まさにオープニングに相応しい強いインパクトを与えた。

 

コンテンポラリーダンサーだけでなく、バレエ、新体操、大道芸といった

あらゆるジャンルのダンサーたちの身体能力の高さ次々にを垣間見れることにおいても、

実に見応え十分なシーンである。

 

 

03. CIRCUS - 〈まっさかサまーカスのテーマ〉 2:16)

 

「ポップでキャッチーな口ずさめるテーマ曲を」──。

 

しかしながら、ただそれだけでは、この作品のテーマ曲である意味がない。

様々な能力を備えたダンサーたちの魅力を全開に楽しんでもらうために

面白おかしくチャーミングでありながら、それでいてスリリングなスピード感を期して、

楽曲は、4拍子~3拍子~2拍子~5拍子とテンポ/リズム・チェンジしながら展開していく。

 

「ディンドゥンダンドンダンディドン」「ドンディンダンドンダンドンディン」は、

逆さ言葉になっていることに加えて、メロディの音形も、順番を逆さに奏でた「対」になっている。

 

また、曲のなかで登場する三連符(トゥウィン・トゥウィン・トゥウィン)、

六連符(DA DA DA DA DA DA)、五連符(one two three four five)が

次のシーンのカウント代りになっていることにも気づくことができれば、

あなたもこれから、マニアックな音楽の世界に足を一歩踏み込むことができるだろう。

 

 

04. musica humanoide 2 (1:40)

 

musica humanoide〉シリーズその2──「レイユル」という謎の言葉が印象的なナンバー。

「逆さま」が作品のテーマのひとつになっていたことを思うと、この言葉は、まさか???。

 

軽快なリズムに乗りダンサーたちは休むことなく踊り続け、

終盤、サックスのリフが登場するシーンでは連続する側転を繰り広げる──

本人たちの談によると「最も体力を使うシーン」とのこと。

 

 

05. Skywalker(2:15)

 

サーカス学校出身の大道芸パフォーマー=谷口界の見せ場。

 

この上ないほど鍛錬られた肉体から生み出されるしなやかさと力強さで

彼の真骨頂である倒立、アクロバットを中心に、浮遊するかのような時間と空間を演出。

これは、その空間に寄り添い、時間の移ろいを支えるような音楽である。

 

 

06. Maze of Butterfly(3:49)

 

新体操出身ダンサー、浅沼圭と引間文佳によるデュオ。

サーカスのテント小屋を模した衣装を纏った二人がキュートに、ときに妖艶に魅せるシーン。

 

舞台上には、小道具として「蝶」のモチーフが登場。

蝶の舞に誘われるように、物語はさらに奥へ奥へと進んでゆく──。

まるで、「蝶の迷宮」に迷い込むように。

 

 

07. 青空楽団 2015 (3:39)

 

「調子外れの不思議な旋律を奏でる架空の楽団」──それがこの〈青空楽団〉のコンセプト。

本作冒頭に収録の〈青空楽団 1995〉から丁度20年後となる

2015年バージョンが、この〈青空楽団 2015〉である。

 

ここでは、女性ダンサーを魅惑するジゴロ役として異彩を放ったダンサー=宮河愛一郎の

役者心が存分に味わえる。本編では、雨音や風の音などの効果音に彩られ、演出が加えられている。

 

音楽は基本となるテーマの繰り返しであるが、

作り手のこだわりが展開ごとに聴ける構成となっていることに耳を澄ますのも一興だ。

 

幕開けは、モノラル音声。展開していくごとにステレオ音声~テンポチェンジと続き、

そして最後は、ラジオからの音のような効果を加えて、

「ズレ」というこの楽団の特徴を演奏だけでなく、音響としても表現している。

 

 

08. musica humanoide 3(1:31)

 

チームのなかで「うさぎ団長」と命名されていた、黒い頭と耳を持つうさぎのキャラクターが

新体操技を披露するシーンの音楽。

 

顔を完全に覆い隠した状態の仮面を被り、しなやかな身体性とその所作から、

「女性が踊っているのだろう」と思われていたようだが、

実際は、男性ダンサー=水島晃太郎が踊っていた。

 

音楽は、〈musica humanoide〉シリーズらしく、展開/ジャンル/時間軸とも

激しく飛び交う内容に仕上げられている。

 

この楽曲だけでなく、本シリーズは全て、稽古場で踊った映像記録に、

あとから音楽を作曲して完成させている(NHK教育〈踊る内臓〉で極めた手法)。

とくにこのシーンの音作りは細密に仕上げられたため、

「完全にシンクロさせて踊るのは困難では?」との懸念はあったものの、

上演では、初演~再演ふくめ、実に自然に踊りこなしていた。

その様は、まさしく「ヒューマノイド」そのものでだった。

 

 

09. Life in a mirage (10:15)

 

バレエダンサー=竹田仁美による妖艶でロマンティックな舞が堪能できるシーンのための音楽

2018年再演時は、五月女 遥とのダブルキャスト)。

 

頭から足先まで、全身ミラーボール状態の衣装を身にまとい、

映像/照明からの光を全身でうとけ止めながらの舞は、

まばゆい星々の煌めきを会場全体に放つかのように映え、

作品中盤で最も印象的なシーンのひとつとなった。

 

オルゴールのなかの小さな世界から夢の中の空想の世界へ誘うような構成で音楽は展開していく。

その調べは、人の「無限の想像力」を表象するようにも聴こえる。

見えているもの、聴こえてくるもの──それを超えた世界を心に映し出すのは、

「人が育んできた想像力」だけが叶えてくれる。

「夢を見ているよう」──そんな感想をこのシーンではよく頂いたことを思い出す。

 

 

10. Calling (0:49)

 

作品本編シーンでは、前曲〈Life in a mirage〉に連続する形で使用されている。

 

闇の中にぽっかりと浮かび上がる光の入口──。

そのなかに飛び込んで、物語はまた別の夢の世界へと彷徨い始める。

 

己の選択なのか? 導きなのか? それとも運命なのか?

 

陽気なイメージの前半から打って変わって、

続く後半から、物語の核心が次々に押し寄せてくる。

 

 

11. tonton(1:32)

 

作品後半の幕開け──。

 

こから、続く〈you and me〉~〈Unchained〉までは、

本編のなかで楽曲そのものが大胆にコラージュされ、

様々な効果音と重なり合いながらシーンが演出された。

 

そのなかで唯一、この〈tonton〉だけは愉快なテイストでまとめられているが、

このシーンがきっかけとなり、作品の本質へと観客を誘っていく。

 

 

12. you and me (1:44)

 

戦闘機が飛び交う音──演者が発する生声──爆撃音を模した数々のノイズ──。

 

赤色に染まる空間のなかで、ダンサーはもがき苦しむ様をみせていく──。

 

初演された2015年のとき以上に、2018年の再演での改定された演出は、とくに見応えがあった。

 

「語られぬ物語」──作品は、鑑賞者の心を映す鏡。

 

ご覧になった皆さんが何を想うのか?

それぞれのなかに浮かんだ心象が、すべて。

 

 

13. Unchained(3:21)

 

本編中では、コラージュされてかすかにしか聴こえてこない音楽。

ガムランの音からイメージされる通りの「神聖な清らかさ」を狙ったもの。

 

耳を澄ます──大切なこと、忘れてはいけないことは、

静けさのなかにあるのかもしれない。

 

 

14. jorro(3:08)

 

森山開次作詩による「ジョウロの歌」。

 

本編シーンでは、森山開次のソロのための音楽として使用されるが、

実際の上演では、この曲の伴奏部分のモチーフを組み合わせてコラージュさせた

アンビエントな曲として披露されている。

 

歌は、ソロを踊りきったあと、森山開次本人によるア・カペラで歌たわれた。

 

ぼく自身には、この物語に隠された詳細なストーリーは共有されていない。

しかし、この歌からそれが何なのか、想像することはできる。

無論、それがすべての解であるはずもないのだが

 

 

15. Sphere In Chains (3:46)

 

すべてを飲み込む巨大な暗黒雲が登場するシーン──

ここには往年の怪獣映画の音楽のようなテイストが似合いそうだ──

その狙い通りに仕上げた1曲。

 

ブラス、ウッドベースによる叫びのような重厚なテーマ、フルートのハーモニクス奏法、

耳を射すノイズ、まるで獲物を飲み尽くし消化していく様を模したような音

すべての組み合わせで、奇怪さを音楽で演出している。

 

タイトルは、「囚われた生命」をイメージして言葉を選んだ。

 

 

16. Tiny Little Thing(3:05)

 

「大切なもの」──それはまさに「Tiny Little Thing」。

 

この宇宙でたったひとつの関わりと命の連なり。

 

 

17. A Small Hope(13:13)

 

ラストシーン──。「小さな希望」と題したこのアルバムのタイトル曲。

 

闇に包まれた世界が、ジョウロの水で浄化され、

床面に投影された青空の映像の上で、ダンサーたちが次々に舞う──。

鈴の音に合わせ、雲が砕け散り、それとコンビネーションをみせるかのごとく、

3人の男性ダンサーの踊りが連なっては離れ、離れては連なりを繰り返し、コンタクトしていく。

 

ハープの音色が聞こえ出すころ、新体操ダンサーが手にした白いリボンの舞が始まる。

そのリボンの軌跡は、飛行機雲のようでもあり、風がなびく様のようでもあり

そこにバレエダンサーが加わり、静かで清らかな空気を会場全体に満たす。

 

叙情的なギターの調べが、この曲前半のハイライト。

それを受け止めるかのように、穏やかに厳かに女性ダンサーたちの舞が続く。

 

実際に存在するのか? それとも空想のなかに棲むのか?

 

ピエロはその舞を見届けながら、勇気を振り絞って、空に掲げられた橋を渡り──。

 

祈りを込めた歌──それは、この物語の終幕の調べ。

空に吊るされたサーカスのテント小屋を模したバルーンが舞い降りてきて

ピエロがそれを身にまとう。

 

ラストは、この物語のキーパーソンでもある、ライオン/ジゴロ役のダンサー=宮河愛一郎と

ピエロ=森山開次によるデュオ。

光の中で、強く激しくぶつかりあいながら、その互いの存在を確かめあうように戯れていく。

 

終幕──そのとき打ち上がる刹那の花火から、人は何を想い浮かべるのだろう?

 

 

18. CIRCUS - Finale(2:23)

 

カーテンコールのための音楽。〈まっさかサまーカスのテーマ〉のリミックスバージョン。

息を飲むシーンのあとに続く暗転後、実に晴れ晴れしい気持ちにさせてくれる1曲。

 

内輪話になるが、本公演終了後、オールスタッフの皆さんに向けた、非公開バージョンも存在している。

 

その名は、〈おつかれサまーカス〉。

 

客だしを終え会場がクローズになったあと、撤収の始まりと共に「ひっそり」と場内に流れている。

 

 

19. jorro - quiet [Bonus Track] 3:21) 

 

ジョウロのインストルメンタルバージョン。

この曲をベースにして、本編での森山開次ソロの音楽を再構成した。

 

 

 

こうして振り返ってみると、改めて痛感させられる。

 

ダンス公演に限らず、大人も子供も一緒になって楽しめる作品が、

歴史上どれだけあっただろうか?

 

子供は素直に、全ての要素に反応していく──

ライオンや鳥、うさぎが登場すれば、そのチャーミングさに笑顔を浮かべ、

暗闇に包まれれば、自ずと恐怖や危機を覚える。

大人は一体いつから、闇を恐れなくなったのだろう?

そこには何か、危険が潜んでいるかもしれないというのに

無垢な子供たちだけが、そのことを今も信じて疑わないのだ。

 

大人は、育んできた想像力を総動員して、

語られることのないストーリーに耳を傾けていく。

そして浮かび上がる心象風景が、自分自身に問いかける──

 

 

──忘れかけていた大切なことについて──

 

 

大人は、子供には味わえない時間を、心のなかで味わっているのである。

 

特別な能力を備えた表現者たちが集結し完成されたこの作品は

何度も再演が果たせるほど容易な内容ではない。

それは観ていただいた方なら十二分にご理解いただけることであろう。

 

現代舞踊の演目として、再演が果たされたこと自体、奇跡的な出来事なのだ。

 

さて、この次は、いつ皆さんと再会することができるだろうか?

 

それはもしかしたら、今夜、あなたの夢の中で果たされるかもしれない。

 

 

 

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【今年2度目の珠洲】

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2018年10月19日

先月の《Rinne》上演に続いて、今月も再び珠洲へやってきた。


ひびのこづえ×ホワイトアスパラガス×川瀬浩介《WONDER WATER》


2017年の奥能登国際芸術祭で生まれたこの作品は、その後各地を周り、まさしく〈凱旋〉を果たした。今年はたくさん上演機会があった。そのおかげで、直前の確認もスムースに進行している。ぼくはダンサーからのリクエストに応えて、より自然な流れに迫るべく、音源の修正を少々──仕上がったシーケンスをヘッドフォンでチェックしながら、いつも通りの「出張前夜寝不足症」と格闘している。脳に刺激を…そして目覚まし効果を期してガムを持参したが、今のところ効果なし(嘆息)

今、遠くで雷鳴が鳴り響いた。天気の崩れる珠洲も初めての経験だ。


#奥能登国際芸術祭 #スズズカ #石川 #石川県 #珠洲 #珠洲市 #能登半島 #芸術祭 #art #artfestival #artfrontgallery #ダンスパフォーマンス #performance #ホワイトアスパラガス #谷口界 #ハチロウ

【目撃者となった夜】

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2018年8月31日

気づけばだいぶながく現場をご一緒しているが、ホワイトアスパラガスの普段の姿を観たことがなかった。

沖縄での仕事の合間の時間、彼らが〈あの爆笑ネタ〉を稽古している様子を傍らで眺めていた。あんなに腹を抱えて笑ったのは、思春期以来か? というくらいそのネタは可笑しさに溢れていた。細かい間合いやコンビネーションを煮詰めていく時間は、まさに真剣勝負そのものだったが、途中でふと我に帰った。


──彼らは現代サーカスユニットだったよな?──


そんなジャンル分けが不毛なことくらい、自分に芸風を見つめればよくわかる。


──完成形がみたい──


その一心で浅草に向かったのだが、なんと雷門の前に着いたとき、突然の体調不良に見舞われた。

出発前、妙な感覚があった。感動巨編を観ていたわけでもないのに勝手に鳥肌が立ったかと思えば、寒気もしだし、遂には妙な汗もかいていた。

脱水気味になっているのか? カフェインによるダメージか? 途中で飲んだドクターペッパーのせいか? それともお腹が減っているだけか?

めまいがしだしたので引き返そうかと思ったが、その元気もない。誰か助けに来てくれる人を思い浮かべようとしたけれど、残念なくらい誰一人として思い浮かばない──ひとまず水を飲んで、前に食べた記憶が思い出せないほど久しぶりに対面した牛丼を頬張り様子をみることにした。

開演30分前──小雨も降り始めて少し肌寒くなってきた。牛丼を食べ終わってもめまいは収まらず、ふわふわとした足取りで劇場に向かう。

すると、開場を待ちわびるお客さんたちの行列が目に入ってきた。


──たくさんのファンが待ってくれている──


それだけ期待されたショーだということがとてもよくわかる光景だった。

ホワイトアスパラガスは、沖縄で仕込んでいたネタを含め、2作品を上演した。大トリで登場した彼らを待ち受けていた満場の会場からの笑いと熱狂は、これから大きく羽ばたいていく2人の未来予想図を先取りしたような、まさに〈現象〉だった。


──ぼくはその目撃者となった──


ときおり歓声が大きすぎて、本人たちにとっては作り込んだ細部が伝わりきらないジレンマが残ったかもしれない。しかし、そうした瞬間に遭遇することも、時代の担い手には必ずつきまとってくるものだ。

そう遠くないうちに、大道芸、サーカス、ジャグリングという枠を軽々飛び超えてしまうことだろう。

沖縄で上演した《WONDER WATER》の記録撮影をしているときだった。最終公演の終盤、手拍子を受けながら彼らが踊っている様をカメラ越しに見つめていて、〈未来の何か〉を覚えた。その図をハッキリとみたわけではない。ただなんとなく、まだ誰も知らない大きな物語が、この後に続きそうな…そんな予感めいたものがあった。


──想像もし得ない未来が、彼らに授けられますように──


それがどんな物語なのか?
今夜の続きを早くみせておくれよ、スター!


#空転劇場
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#未だ見ぬ物語
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【美はときに人を惑わす──6日6色の東シナ海】

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2018年8月28日

前日の10時に現地を出て、帰宅したのは18時──それからほとんど丸一日、眠っていた。

帰宅後、ぼんやりしながら記録動画を自宅のテレビモニターで確認している間に、案の定、眠りに落ちた。生理現象で起き上がったのか、腹が空いて目覚めたのかあまり憶えていないが、途中で寝床へ移動したらしい。

いや、今、思い出した。

21時ごろだったか、東京は激しい雷雨に襲われていた。映像記録のなかに収めた花火の音なのか、それとも雷の音なのかわからず、うつらうつらとしていた記憶がある。そしてある瞬間、閃光と共に、電気機器がすべて止まった。

しばらくすると、自動的に電源が再供給され始めた。ブレーカーは手動で入れ直す必要があるから、この現象はなんだろう?


──落雷による停電──


初めての経験だった。

そのとき家の各所を確認するために起き上がったのだった。洗い済みの洗濯物を取り出していつも通り室内干しをし、通電を確認するようにサーキュレーターを回した。

それから丸一日が経過した。予定では、今夜はジムに行くことになっている。無論、こんな動くこともままならない酷い疲れに見舞われているときは身体を休めることを優先させたい。

滞在中記録した、ホテルのある窓辺の図を並べてみた。一週間も同じ海を見つめていると、今日の海がどれだけ澄んでいるのかがわかるようになった気がする。

三層に色分けされて見えるのは、きっと海底までの深さの違いだ。海は、青い波長の光を吸収する。深ければ深いほど海水の体積が多くなるのだから、浅瀬は透明に近く、沖合は青をたくさん吸収して深く色づく…そういう理屈なのだろう。

それにしても、その中間にあたるエメラルド色した海の美しさは、いったい誰の仕業なのか?


この窓辺が気に入ったのは、通常はあまりお客様が来ることのない場所に位置していること。


──特別な場所は、そっとしている──


賑わいの場でひとり味わう静けさ──また再び、静寂のなかにあるその興奮を楽しみたい。


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【さよならの朝に】

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2018年8月26日

早朝に目覚めて、ベッドを見つめる──。

沖縄滞在最後の夜は、こんな調子だったらしい。


──ベッドに潜り込む気力さえなかった──


打上げを終えて客室に戻ったのは、25時過ぎ。休むまもなく着替えて、24時間使えるジムに向かった。滞在期間中、2度は使いたかったが、これも予想通り、そんな余裕はまったくなかった。

昼は本番へ向けた準備、夜は部屋で明方まで記録動画の編集…。少数精鋭のチームで向かった立派なリゾートホテルでの仕事に寛ぎの時間を期待するほど、ぼくの経験値は低くはない。


──目の前の仕事はその瞬間に終えたい──


最終日、6日目の2演目の記録動画をまとめたかった。しかし、そんなトップエリートのような振舞いは、ぼくにはできるはずもなかった。

目覚ましをかけずに横になった記憶がある。ところが、夢になかで見た通り、チェックアウト3時間前に自然と目が覚めた。

既に映像素材の取込みと編集のためのフォーマット変換は終演後に終えてあった。


──まだ間に合う──


連日、記録を仕上げてきたので、6日目ともなればもう手慣れたものだ。2時間と少しで作業を終えて、動画配信サービスにアクセスした。

アップロードが完了するまでの間に朝食をいただきに向かった。毎日食べても飽きることのない充実したメニューと酸味と苦味が絶妙に混じったブラックコーヒーを今朝もたっぷり堪能──。

窓辺に映る景色と夏休みの家族連れで賑わうビュッフェの様子を眺めながら、37年前、母に連れられてきた沖縄で体験した出来事の記憶を弄んだり、かつては特別なひとのための場であった「高級ホテル」の移り変わりについて考察を深めたりしながら、過ぎた時のながさについて想いをめぐらせていた。


──生きる──


ひとはいつの時代も、生きるために必死だった。その挑戦の歴史があるからこそ、ぼくたちは今を生きていられる。

37年前に沖縄に来たとき、母は、ちょうど今のぼくの年齢と同じ、47歳だった。価値観も社会情勢も今とは異なる今、当時の心情を訊いたところで何になる? それでも、興味があった。


──母が何を想ったのか?──


母は今でも笑顔を絶やさずにいてくれる。けれど、今の母に何を訊ねても、もう応えは帰ってこない。


──ぼくがこの旅で何を感じたのか?──


これからの日々のなかで、きっと気づきが訪れるのだろう。そのためにぼくは、この歳に沖縄にやってきたに違いない。


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【沖縄パフォーマンス最終日】

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2018年8月26日

本番6日目。
4日目を終えたあたりから、絶えず朦朧としている。


音源編集──。
昼夜の本番──。
音響操作──。
記録動画撮影および編集──。
MC──。
キャプテンシー?──。


標準の2倍くらいはある体型をしているのだから…
3人前は食べているのだから…
5人前は無駄話をしているのだから…


これくらい役割を担ってもまだ足りないかもしれない。


手が足りなくなって遅れている動画編集を現在の時間軸まで戻そうと、早出特編?を稽古場にてひとり取り組んでいる。

今日も眼下には見事な景色が広がっている。しかし、眩しがりのぼくは、眼を守るため、室内でもサングラスを着用しながらその自然の恵みを眺めている。

メインパフォーマンスと言える《WONDER WATER》は、昨夜の上演で千秋楽を迎えた。今日は午後と夕方に、ホワイトアスパラガス《MASK》、浅沼圭×安岡あこ《Rinne》を披露して大千秋楽となる。それそれ3度目の上演になるので、より技の精度やコンビネーションが高まっていくことだろう。

役目を完遂して何を想うのか?
それが一番の楽しみ。


ぼくの座る位置からは、バルコニーのガラスの柵の上端と水平線が重なって見える──。


嗚呼、なんて美しいのだろう。


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