川瀬浩介|生きる。

或るロマンティストの営み

【恍惚のとき】

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2018年8月2日

事務専用机を設けた。

これまではスタジオ内で並行して行っていたのだけれど、実に能率が上がらない──事務を始めると空間は書類であふれて作曲に手がつけられなくなり、作曲に集中するため書類を整理すると、今度は事務が滞ってしまう。


──アタマノナカガウルサイ──


脳内の整理が必要な年頃になってきている。そのため、この2年ほどは、パフォーマンスを上げるために必要と思われることを試し、取り入れている。環境づくりもその一環だ。

母の不在で空いたスペースに置いたテーブルには、限られた事務用品とコンピュータしかない。1日のうち、決めた時間にだけ事務をすることにした。メールの確認もそのときだけ行う。スマートフォンを使い始めて間もなく10年──常時連絡をチェックすることを理想としてきたが、当然のように、何事も利点ばかりではない。


──己の使命に集中するために──


今はそのことだけを考えている。


今夜は、仕上がったばかりの音源を、その事務専用机にあるコンピュータで聴いている。長年、録音エンジニアリングをこなしてきただけに、仕上がりは上々。スタジオの環境で聴くのと遜色ない音が聴こえてきた。まずは何より一安心だが、本番へ向けてまだ改変していくことになるだろう。

こうした時間に、ひとり想う──。


──音楽こそ、母が授けてくれた一番の贈りもの──


音楽に没入している時間は、まさに〈恍惚のとき〉だ。痛みや苦しみを覚えることはあっても、それから何も感じることはない。音楽がそばにあるだけで──喜びも愉しみも可笑しみも──あらゆる感情から解き放たれる。


──無 nothingness──


「恍惚」を英語で何というのか?──調べていたら、この言葉のもう一つの意味を思い出した。

恍惚とはまさに、今、母とぼくが過ごしている時間のことをいうのだろう。母とぼくとで、その二つの意味を体現しているかのようだ。


──あるべき場所に帰る──


広義において、人はそれを「旅立ち」と名付けたのだろう。

母が自ずとそうしているように、ぼくも今、ぼくのあるべき場所にいる。

「音楽」という営みのなかに。


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【目がくらむ】

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2018年8月1日

まるでアスリートのようだ。

限界まで歌うことに挑戦する──すると、もはや起きていることさえ難しくなり、そのまま眠りに就く。

数時間経過して目覚めると、近頃の筋トレの効果か? それとも、歌うこともトレーニングになっているのか? 全身の筋肉に心地よい張りを感じる。

食事は作り置いたおかずがある。外に出ることは一切ない。昼夜問わず、喉の調子が比較的いい時間帯に録音を敢行。暑さと、無理なハイトーンを多重録音するため連続して歌っていることもあり、時おり酸欠に気味になっているのか、視界が白む瞬間がある。

いつか母を入浴させていたとき、うっかりタイマーを掛け忘れていつもよりほんの僅か長く湯船に浸からせてしまったことがあった。慌てて浴槽から引き上げると、案の定、血の気が引けて、母は気を失いかけた。一大事にならなくてよかったが、人が脱力する瞬間の怖さを、あのとき改めて感じた。


──今、この家にぼくはひとり──


果たすべき約束を守るため、無理はしてはならない。だがしかし、その約束のために、全力を投じたい。持てる力のすべてを捧げて。


さて、今日の録音は比較的順調に進み、そろそろゴールが見えてきた。次の曲は、これよりもたくさん声を重ねることになりそうだ。トラックが増えていくので、ミキシングも一苦労。無論、それが録音の醍醐味なのだけれど。

この次のプロジェクトでも歌うことになったら、酸素缶を予め用意しておくことにしよう。


──己の身は、己で守る──



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【喉が軋む】

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2018年7月30日

ファルセットの限界値まで挑戦──。

喉がちぎれそうな痛みはこれまでも何度か味わっているが、調子が良くない状態でトライしているものだから、余計に痛む。

かれこれ6時間も休まず歌ってたのか…。調子に関わらず、それは無理というもの。


──下手なボーカル、数打ちゃ当たる──


これはまさに真実なのである。

そしてどうにか録り終えた。

少し休んで、次の曲へ。


#vocal #recording #audiotechnica #
At4050 #歌詩はモニタで観ながら歌う

 

【ようこそ! 真新しい自分へ】

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2018年7月28日

昨夜に続いて、今夜もスパイラルホールへ。嵐が過ぎたあとの東京の夜空には、満月が浮かんでいた。

Ryoji Ikeda《C4l》──この作品も昨夜の《formula》と同様に、12年ぶりに観ることになった。

当時よりも様々な経験値があがったためか、感じるものがより多かった気がする。


What is Love? Never ask.

What is Peace? Never answered.


作品中に提示されるこのテキスト──膨大な情報量のある氏の作品から一部を引用することほど野暮なことはないが、12年前もやはりこのテキストの印象が強く残った記憶が、今回の鑑賞から呼び覚まされた。

今夜も2度続けての鑑賞──再び、とてもいい夜だった。

帰り道、ぼんやりと思い返すと、氏の作品を追い始めてから、もう20年以上の時間が経過していたことに気づいた。車を走らせながら自分のその執拗ぶりに思わず苦笑したが、真夜中の景色を見渡すと、慣れ親しんだ街並みもすっかり変わっていることを改めて知らされた。

そんなひとりの時間、最後に問うのは、自分自身の「今」についてだ。


──成長できたのか?──


駆け出してから二十余年──持てる力をすべて出し切っても、ぼくは未だここにいる。

わが「果たすべき約束」に向けては、今日も大きな成果は得られなかった。それでも、日課にしているエレクトリックギターの練習では、この一ト月ほどの間に、大きな前進を続けている感触が絶えずある。


──難しいフレーズが弾けるようになった──


それが手応えというわけではもちろんない。その成長は、側からみれば、何の変化もないように映るだろう。けれど、明らかに大きく前進している。


──理想のトーン──


押弦、ピッキング、タッチ、チョーキング、アーミング、ギターからアンプへのボリュームの入れ具合…演奏中、手先でコントロールできるそのすべてのパラメータを操り放つ「ぼくの音色」──ギターを手にとってから30年ほど経つが、ようやく理想のトーンが奏でられてきた。


──ギターミュージック──


ロックやメタル、ジャズ、ブルーズという枠にとらわれず、ギターである情景を奏でる音楽を綴りたい。


──次に目覚めたら、もうぼくは、真新しい自分──


青き時代から思い描いた景色を、いつかきっと。


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【東京の真夜中の嗜み──Ryoji Ikeda concert pieces】

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2018年7月27日

東京は、25時──。

真夜中である。雨が近づいているせいか、とても涼しくて静かな夜──。そんな夜に、ぼくはひとり車を飛ばして、ご縁あるあの場所へ向かった。


──Ryoji Ikeda concert pieces──


初演から、全国各地で何度も見届けてきた作品〈formula〉を再び楽しみに出かけた。2006年、名古屋で観たのが恐らく最後だった気がする。


──昔みた映画を眺めているよう──


当時の自分のことや世界のことなど、いろんな記憶が呼び覚まされてきた。そして、複雑に絡み合うポリリズミックなビートを感じて、深く深く、ただひたすらに、その情景に酔いしれていた。

閃光と轟音に抱かれたその空間は、我が聖地=SPIRALホール。氏がその歴史を育んでこられた場所としても知られている。

ぼくにとっても、デビューのきっかけを与えていただいた場でもあり、森山開次×ひびのこづえ×川瀬浩介《LIVE BONE》劇場版を初演した地でもあり、とても所縁がある。

最初に門を叩いたのは、もう20年も前のことだ。


──あのとき何を願っていたのか?──


それは忘れるはずもなかった。


相変わらず、氏の上演ともなれば2回続けて観たくなってしまう質は今も変わっていなかった。チケットはもちろん前売で手に入れてはいたが、今夜の入場の際、新たにもう1枚、当日券を求めた。


──1度目は最後列、2度目は最前列──


時間が許すならもう一度、中央でも味わいたかった。

しかし、夜が明ける前に帰って、しっかり休息を取りたい。


──ぼくにも、果たすべき約束があるから──


キャリアの初めごろは、こうした音楽を追求していた時代もあった。それが今では、その当時育んだノウハウを、まったく異なる表情で表現している。


──これがぼくの仕事──


今はそう確信している。それは今ではもう、ぼくにしかできないことになったのだから。

さて、明日も明後日も2公演ずつ楽しみにいく。それ以外の時間は、自分の歌の録音を全力で──。

いい作品に仕上げたい。世代性別地域国籍問わず、みんなが楽しめるような作品になるように。

さあ眠ろう。


十分な休息を取ること──。

今では、それがかなり重要な仕事のひとつになっている。


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【武道館への道は果てしなく】

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2018年7月13日

森山開次《サーカス》もご覧いただいたACIDMANのツアーファイナルを堪能。

ロックバンドだけが放つ眩い光と、それを受け止めてさらに増幅させ共振させるファンのみなさんの情熱を眺めていた。


──このときこそを、幸福と呼ぶ──


いつだってそうだ。ロックミュージックだけが、すべてを包み込むことができる。

ぼくの音楽は、まったくそうは聴こえないかもしれないけれど、どんなスタイルをとっていようと「ロック」だといい続けている。

それは、挑戦し続けている音楽だからに他ならない。

楽曲に散りばめられた笑いや労りの仮面は、面倒くさいほどのロマンに支えられているのだから。


──あほロマンティック──


関西出身のぼくだから、己の音楽をあえてこう名付けることにしよう。

さていよいよぼくの出番だ。ぼくの歩みは武道館へは続かないだろうけれど、これまで歩いてきた自分だけの道を、まだまだ突き進みたい。


──この道の先に何があるのか?──


それを誰よりも知りたいと願っているのは、このぼく自身。


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